オイルが漏れていた。

オイル漏れを見つけた出来事を、小説風に書いてみました。
最近は5日間だけ入院していたこともあり、ブログ執筆にエネルギーを注いでいました。
その影響で、動画制作にはまったく手が付けられていませんでしたが、
リハビリも兼ねて、動画制作を始める前に1本記事を書いてみました。「何のリハビリだよ・・・。」

冷たい風が微かに頬を撫でる昼下がり、師走の気配が迫る12月27日(金)。
病院の帰り道、駐車場にバイクを止め、カバーを掛けようとしたとき、不意に視界の端にセンタースタンドが映った。

「……ん? 何かこびりついてる?」

小さく呟きながら反対側へ回り込むと、そこには異様な光景が広がっていた。
センタースタンドだけではなく、マフラーやタイヤにまで液体が飛び散り、目にした瞬間、思わず息を呑む。

しっとりと表面にまとわりついた液体は、まるで意志を持つかのように吸着して離れない。
その質感はただの水とは程遠く、透明感は一切なく、光を吸い込むような黒さと重々しい存在感を放っている。
それが何であるかを理解するまで、ほとんど時間はかからなかった。

「――オイルだ。」

だが、不思議なことに、車体の下から直接漏れた形跡はない。
それにもかかわらず、センタースタンド周辺にはポタポタと落ちた痕跡があり、
駐車場のコンクリートには滲んだシミがくっきりと刻まれている。

「……エンジンに亀裂でも入ったのか?」

言葉を口にした瞬間、記憶の底からある出来事が浮かび上がる。
以前、同じような状況に遭遇したことがあった。

その時の原因は、オイル給油口の蓋がしっかり閉まっていなかった、ただそれだけだったのだ。

胸の内に生じた妙な予感に突き動かされるように、給油口の周囲を調べる。
案の定、蓋の周りはオイルでベタついている。
ビニール袋を手に取り、恐る恐る蓋をひねってみると……緩んでいた。

ココがゆるんで・・・

「どうしてだ……? オイル交換をしたのは、たった1ヶ月前だったはずなのに……」

溜息ためいき交じりに呟きながら、原因が分かった安堵と、不可解な苛立ちが交錯する。
とはいえ、今できることは限られている。
静かに蓋を締め直し、ぎゅっと力を込めた。

「これで……大丈夫なはずだ」

自分に言い聞かせるように呟き、視線を時計へ向ける。
時刻は11時46分。
駐車場に着いたのが11時41分だから、5分が経過している。
弁当の引き取り時間は11時45分だが、いつも10分遅れる程度なら問題はない。
だが、洗浄まで手を付ければ20分はかかるだろう。

「今日は後回しにするしかないか……」

再びPCXに目をやると、その影が静かに駐車場の片隅に佇んでいた。その姿を見ながら、ふと呟く。

「……写真、撮り忘れたな。まあ、いいか……」

結局、その場を足早に立ち去ることにした。

冷たい風が背中を押すように吹き抜け、彼の後ろ姿を遠ざけていく。
PCXはただ静かにその場に留まり、次の手入れを待つかのように静かに佇んでいた。

翌日

走行距離を確認すると、41,794km。
前回のオイル交換から約3500キロ。
予定より少し早いが、今が好機だと判断した。
「補充だけで済ませるか…いや、全部交換した方が確実だろう」
独り言が自然と口をつく。未知の要因を抱えたまま走るのは、どうにも性に合わない。


洗浄開始

作業に取り掛かる。手に取った洗浄剤を振りながら、目の前のこびりついた油汚れに視線を落とす。
その粘り気と広がり具合を見て、一瞬ため息が漏れた。

「これ、ゴム製品には使えないんだったな……」

独り言のように呟きながらも、他に方法がない現実を受け入れる。
タイヤやディスクブレーキ周りに洗浄剤を素早く吹きかけ、汚れが落ちていくのを待つ。



そして次の手順、水で洗い流そうとしたとき、不意に手が止まった。

――噴霧器を忘れた。

段取りの悪さに、思わず自分への苛立ちが湧き上がる。
それをぐっと押し殺しながら、次の作業へ移る決断をした。

「……先にオイル交換をするか」

作業を進める中、リアの泥よけ部分にまで飛び散った油が目に入る。
その範囲の広さに軽い驚きを覚えたが、噴霧器だけでなくブラシも持ってくるのを忘れたことを思い出し、肩を落とす。
「仕方ない……今回はこれで良しとするか」
周囲を見回しながら、自分自身に妥協を言い聞かせるように呟いた。
消化しきれない苛立ちを胸に抱えつつも、彼は次の作業へと手を伸ばした。

オイル交換

洗浄が一段落すると、いよいよオイル交換に取り掛かる。
いつもの手順でオイルの残量を確認すると、ゲージの下限ギリギリながら、オイルはまだ残っている。
大きな漏れはなさそうだ。

「いつものオイル量は800ccと少し……これで足りるだろう」
そう呟きながら、オイルジョッキに入っている全量を注入口から静かに注ぎ込む。

全てを注ぎ終えたところで、シリコン製のじょうごを外す作業に移る。
しかし、ここで毎回の難題が頭をよぎる。
オイルが垂れてしまうのだ。
今回もキッチンペーパーをあらかじめセットしていたが、予想外の場所にもオイルが垂れ、思わず眉間に皺が寄る。

「……またか」
溜息をつきながら、こぼれたオイルを拭き取り、最後に静かにキャップを閉じた。
その音が、作業の終わりを告げるかのように駐車場に響いた。

最後の仕上げ

オイル交換後、仕上げの水洗いをするために自宅へ戻り、噴霧器を取りに行く。
冷水で汚れを流すが、どうにも納得がいかない。
「お湯を使えばもっと綺麗に落ちただろうな…」
不満げに呟きながらも、作業を終えることにした。


完璧を求めることに執着しすぎるのは危険だ。
次回への課題として胸に刻みつける。

エピローグ

作業を記録しようと、iPhoneを取り出した。
寒風が吹き抜ける中、両方のデバイスを起動させる。
しかし、画面に表示されたバッテリー残量を見て思わず眉をひそめた。

iPhoneの充電はすでに20%を切っている。

この時期特有の冷え込みが、バッテリーの能力をさらに奪っているのだろう。
冬の寒さに対して、デバイスはどうにも無力だった。

一方で、自分の身体は驚くほど快適だった。
今日は今年に手に入れたSonyのReonPocket5を身につけている。


背中にじんわりと伝わる温もりは、この季節には何よりも心地よい。

「これ、夏場のクーラーで使うよりいいかもしれないな……」

小さく呟きながら、ほんの少し微笑む。冷たい風が頬を撫でる中、温かさに包まれた背中が、不思議と安心感をもたらしていた。

作業を終えた駐車場の片隅で、わずかに揺れるiPhoneの画面を見つめる。
短い録画を終え、静かに電源を落とすと、その場を後にする足取りが少し軽く感じられた。

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